だが、甘い。


斎藤の居合いなら、完全に把握している。


床を蹴り、剣壱ヘ打ち込む体制に入る。


「(ニヤリ)」


そう剣壱が笑ったような気がした。


「なっ!?」


剣壱は居合いの構えのまま俺の刀を交わし、身体を回転させて俺の後ろにまわる。


「はっ!」


そして俺の背中に木刀を打ち込んだ。


「ぅっ」


思わず呻き声が上がり、足から崩れ落ちる。


だが剣壱の木刀は止まらず、顔を上げれば木刀が迫ってきているのが捉えられる。


だが身体は動かない。


「そこまで!」


北凪の声が聞こえると、剣壱の木刀は俺の顔の目の前で止まった。


剣壱は木刀を下ろすと、俺に手を差し伸べる。


「‥‥‥はっ、俺の負けだ」


思わず呟き、自分の力で立った。


「あ~あ、せっかく手かしてあげようと思ったのに」


「おめぇの手なんざ借りねぇよ」


「うわっ、嫌な感じ」


「お前にだけは言われたくねぇな」


「そぉ?」


打たれた背中が酷く痛む。


真剣だったら斬られてたな。


「前の勝ちはまぐれみてぇだな」


「別にそんなことないよ。ま、真剣でやったら土方さんは僕には勝てないってことだよ」


「このっ‥‥‥言ってくれるじゃねぇか」


「事実だよ。実戦じゃ、死んだ方が負けなんだし。それに僕は武士じゃないから、卑怯な真似はいくらでもする」


俺にしか聞こえない程度の声。


剣壱は薄ら笑いをうかべて、俺に言った。


「実戦で僕に勝てる奴、新選組にはいないよ」