そう沖田さんに言い、僕はそこから風のように逃げる。


それはなぜか?


有無を言わさずに逃げると、たいていの者は追いかけない。


ま、追いかけられたとしてもふりきるけど。


ここの土地勘も掴めてきたしなぁ。


もう単独行動しても、それなりに動ける。


山南さんに京の地図を見せてもらったし。


あれ覚えたらだいぶ楽になったんだよね。


「あら?剣ちゃん?」


ふと呼ばれて立ち止まると、そこにはお梅さんがいた。


お梅さんの隣には、見たことのある顔が。


あれは呉服屋『花服』の娘。


また面倒なのに会っちゃったなぁ。


「お梅さん、こんにちわ!」


「うふふ、きぐうね。一人?」


「うん。さっきまで新八さん達といたんだけどね、喧嘩になっちゃったから逃げてきたの」


「あら、それは‥‥‥剣ちゃん、どこも怪我してないの?」


「大丈夫だよ!」


お梅さんの前でクルクルと回る。


それに対して、お梅さんは優しく笑った。


さて、問題はもう1人の方だな。


「あなた、この前うちに来てた?ほら、水色の簪を買ってくれた‥‥‥」


「あ、そうだよ!お姉さん、よく覚えてたね」


正確には、落とし物を届けたお礼にもらっただけなんだけど。


簪というワードにお梅さんの表情が変わる。


それからキラキラとした目を僕に向けてきた。


「その簪、誰かにあげたの?」