背中合わせの恋


そして今はそれ以上に厄介な人物がいておかしくない


「挨拶とかあるの?」

「あるんじゃない?私は知らないけど」

「本当に何も聞かされてないのね」

「必要ないんでしょ。私の意見なんて最初からなかったし」


無駄なことはしない主義の父と祖父のことだ

私に事情を説明することは時間の無駄とでも思っていそうだ


「そんなのでいいの?」

「いいんじゃない?政略結婚なんだし、周りも本当に恋愛結婚だなんて思っていないでしょう?」


それに今日ここに来る人は私たちの婚約を祝いに来たんじゃなくて会社の得になるために人脈を広げることが目的なんだから


「いいのよ。これで、私に自由なんてないんだから」

「凛・・・」

「私は父にいろんなものを奪われてきた。恋愛する権利があるなんて最初から期待してなかったんだから何とも思わないの」


それは紛れもない本心だった

幼い頃、ほのかに抱いていた淡い初恋を父にひねりつぶされてから私は恋愛というものに憧れも期待も抱いていなかった


今でも覚えている『お前に選択肢なんてないんだ。結婚相手は俺が決める』と怒りながら言った父の台詞