(でも...)



「だ、ダメ!」




そういって私は、小田桐君の体を押し出した。


私に押し出された小田桐君は、面白そうにフフッと笑って、椅子から立ち上がる。




「これからも、ヨロシクね。

日葵ちゃん。」




そういって、いつもの『女子のハート秒殺スマイル』で笑いかけて、立ち去ろうとする。




(えっ?

お、おちょくられてる?)



「あっ、そうだ。」




ポカーンとしている私に、何かを思い出したようにそういって、振り返る小田桐君。




「俺の正体知ってんの、黙っとけよ。」




そういった小田桐君は、自分の唇に軽く人差し指を当てて、ニヤッと笑うと、さっさと二階に上がってしまった。



必死だった私とは裏腹に、サラッと立ち去ってしまった小田桐君に、なんだかモヤモヤとした気持ちが残る。




(この人...私の好きな人、だよね?

...てか、こんな人だっけ?!

もっと、爽やかで優しい人じゃなかった?!)




私の初恋の相手が、私と同じ家にいる。




(いる...というか、ずっといた?)




真実を知った今、私の頭の中で、今までの『小田桐君』のイメージが、ガラガラと崩れていく。




(てか、この状況って、ダイジョブなの?)




「ちょ、ちょっと待って小田桐君!!」




まだ、いろいろと整理整頓ができてない私の脳は、自分の恋の行方を握る彼の背中を、ただただ追いかける事しかできなかった。