「カロン、俺だ。わかるか?」
優しく問われるも、子供カロンは首をゆっくり傾ける。
「だれ…?わからない」
フェオドールを見ても知らないと言う彼に小鳥は驚いた。
わからないと言われ、フェオドールが苦しげに溜息をつく。
そして、躊躇いがちに名前を言った。
「……フェオだ」
「フェ、オ…?…っ!!うそ…。フェオ、この前見た時よりデッカイ」
「今の俺は大人だからな」
オーレリアンの背中をポンポンしながらフェオドールは小鳥の方を向いた。
「マドモアゼル。すまないが、カロンの手を握っててやってくれないか」
「はい」
言われた通りカロンの小さな手を握ろうとした小鳥だったが。
「だ、だめ!!お姉ちゃん、おれにさわったらケガするよ…!」
「カロンさん…?」
「おれ、もどらなきゃ。自分のへや……。じゃないと、また…ママが…!」
怯えた表情で辺りをキョロキョロ見回すカロン。
今にも泣き出しそうな様子の弟に、フェオドールはハッキリと言い聞かせた。
「カロン、もう母親はいない。お前は自由だ」
「え…」
「怯える必要はない。あの部屋にも……戻らなくていいんだ」



