それから小鳥と静理は取り敢えず屋敷に戻ることに決めた。

行きと違い、帰り道で二人が手を繋ぐことはない。

小鳥の怯えを察したのか、静理はもう無理に触れようとはしなかった。

会話もなく、靴音だけが耳に届く。

お互い、どんな顔でどんな話をすればいいのか見当もつかなかった。

屋敷に到着してからも無言は続く。

二人がやっと口を開いたのは、小鳥が自分の部屋に入る直前だ。

「……小鳥ちゃん」

「はい……」

「何かあったら、俺を呼んで。お願い」

「はい……わかりました」

しばらく部屋で一人になりたかった。

そんな小鳥の気持ちまで察したのか、静理はそれだけ言うと自室の方へ行ってしまった。


(静理さん……心配してくれてるのかな)


何かあったら、とは何のことだろう。


(そう言えば……怪我、してるはずなのに……痛くない)


一人になった部屋の中、小鳥は恐る恐る服を脱いだ。

確認するのは勿論、銃弾で撃ち抜かれた胸だ。


(血は……もう止まってる)


傷になっているが、闇人の回復力でいずれ塞がるだろう。

小鳥は自分の胸にそっと手を当てた。


(…………何も、感じない)


本来なら、トクトクと鼓動が感じられるはず。


(何も……感じない、よ……)


突きつけられた己の現実に、小鳥は叫びたくなった。


「怖いっ……自分が、怖い……!」


突然の変化に納得できるわけもなく、小鳥は柩のベッドの中で丸くなり、泣いた。