言われた通りに手を差し出す。

すると彼は小鳥の右手を取り、自分の胸へ持っていった。

「あっ…」

ドキドキと早鐘を打つフェオドールの鼓動が小鳥の手に伝わってくる。

「情けないことに、落ち着かない」

端整な顔が苦笑で歪む。

「えっと…緊張がヒドイ時は手の平に三回“人”って書いて飲み込むといいらしいですよ!あとは……失礼ですけど、お客さんをジャガイモだと思えば視線が気にならなくなったり…」

「ジャガイモ?君をジャガイモだと思えと…?」

「はい!ジャガイモでもカボチャでもOKです」

「フフッ、マドモアゼル…」

柔らかく微笑み、フェオドールは重ねていた小鳥の手を持ち上げ口づけた。

チュッという軽いリップ音と共に手が解放される。


「フェオ~!時間だよっ」


ミロスラフの呼び掛けに反応し、彼はヴァイオリンを持った。

そして小鳥を振り返り、妖艶なスマイル。


「他の客はともかく……君からの熱い視線なら大歓迎だ」


そう言って、明るいライトの方へ歩いて行く。

フェオドールの優美な後ろ姿。

見惚れる小鳥。


(フェオさんのドキドキが移ったみたい…)


感染した胸のドキドキは当分落ち着きそうになかった。