フェオドールの欲望をくすぐるそれは、油断した途端一気に理性を引きちぎってくるだろう。

「なんて…甘い香りなんだっ…」


ーー小鳥から離れなければ…!


そう本能で悟り、フェオドールが再び一歩下がろうとした瞬間だった。

スッーー。

彼の眼前に差し出された、ほっそりとした指先。

白いそれからツプリと溢れ出した赤に嫌でも視線が釘付けになる。

そして、彼女は言うのだ。


「……どうぞ」


フェオドールは耳を疑った。

「な、ぜ……?」

「この血は…フェオさんのものだから…」

頬を熱で染めながらもハッキリと彼女は答えをくれる。

「フェオさんになら……飲み干されたって構わないんです」

静かに告げられたのは、小鳥なりの精一杯の愛の告白だった。

「……俺に、なら…?」

驚きつつもフェオドールは嬉しげに顔を綻ばせる。

「……ありがとう…小鳥」

自分の口元から手を離し、懇願するように彼は囁いた。

「願わくは、少しだけ……ほんの少しだけ、舐めさせてくれないか…?」

この血は貴方のものだと宣言したにもかかわらず、未だ遠慮がちなフェオドール。


(そんなフェオさんだから、やっぱり好き)


小鳥は小さく微笑み、また同じセリフを繰り返した。

「どうぞ」