「さっきの曲はなんの曲ですか?とってもステキなメロディーでした」

「パガニーニのカプリースだ」

「パガ、ニーニ?」

「人間の名前だよ。パガニーニという人間が作曲した24のカプリース。明日はそれを弾くんだ」

飲みながら律儀に説明してくれる。

グラスの赤が彼の喉に流し込まれる様子を眺めながら小鳥は目を丸くした。

「24…?もしかして、24曲も弾くんですか?」

「まあ…そうなるな」

「そんなにっ…スゴイです!時間は…結構かかるんですか?」

「そうだな……短い曲の集まりだが、通しで弾くからだいたい一時間ちょっとかかる」

「一時間…!?そんなに弾いて手は大丈夫なんですか?痛めたりとか…」

この質問が可笑しかったのか、フェオドールは穏やかにクスリと笑った。

「大丈夫だ。心配ない」

それからジッと小鳥を見つめ、グラスを置く。

「……マドモアゼル。明日、都合が良ければ……どうだろう、リサイタルに来てみないか?」

「えっ…いいんですか?」

「ああ」

思わぬお誘いに小鳥の瞳が輝く。

「なら是非!」

嬉しげな笑顔を見せる彼女に、フェオドールも自然と口元を緩ませた。