ならば食事の間だけ。

小鳥はフェオドールと一緒に白の丸テーブルについた。


「練習、お疲れ様です」

グラスに血液が注がれていく。

フェオドールはボトルを置くとグラスを手に持ち、ゆらりと赤を揺らした。

「……俺は白魔じゃないからな。練習していないと不安で仕方ない」

「え…なら白魔さんは、練習しないんですか?」

「ああ。あいつは天才なんだ。やる気がなくても何でもできる。努力しないと何もできない俺とは違う」

無表情ではあるが、彼の声には悲痛でいて自虐的な響きがこめられていた。


(フェオさんは、白魔さんがうらやましいのかな…?)


天才の兄には勝てない、と。

近づきたくても距離は縮まらないのだと、諦めているようだ。


(白魔さんと比べる必要なんてないのに…)


小鳥は思う。

「私は…フェオさんの音、優しくて好きです」

単純に。

純粋に。

ろくに音楽の知識もなく、フェオドールの音が周りからどう評価されているのかも全く知らない人間の、率直な感想。


「……ありがとう」


フェオドールの表情が少しだけ和らいだ。