フェオドールは寝室ではなく、彼お気に入りの花園にいた。

咲き誇る青薔薇の傍に立ち、美しいヴァイオリンの旋律を奏でている。

弾き終わるまで声をかけずにいようと思っていた小鳥だが、早々に気づかれてしまった。

手を止め、フェオドールが振り返る。

「マドモアゼル?」

「あっ、勝手にすみません!これ…食事ですっ」

「ああ…わざわざ、すまない」

ピリピリしている、と静理が言っていた通り、今のフェオドールは普段より気分が高ぶっているように見えた。

険しい眼差し。

額からは汗が滲み出ている。


(きっと一日中練習してたんだ…)


邪魔しちゃいけない。

そう考えた小鳥がボトルとグラスをテーブルに置いてそっと部屋から出て行こうとした時だった。


「行くのか…?」


小鳥の背中に寂しげな声がかかった。

振り向けばフェオドールがこちらをジッと見つめている。

「食事の間、いてほしい…」

「お邪魔では…」

「本気で邪魔なら誘ったりしないけど?」