――とある小さな村に、ひとりの地主がいた。その者はたいそう金持ちであるのにかかわらず、困っている者がいても着るものや食べるものさえも分け与えない、卑しい人物だった。

 その地主がぱったりと姿を見せなくなったのはいつの頃からだろうか。

 なんでも彼は病にかかったらしく、医師に相談しても医術の施しようがないという噂を耳にした。

 その病、原因不明のもので、医者でさえも前代未聞だった。――というのも、どんなに飲み物を口にしても喉の渇きを潤せない病だそうだ。井戸の水を浴びるほどに飲んでも渇きは癒えず、屋敷に隠りきりになっているらしい。




 旧暦七月の十四日目。旧暦七月は今でいう七月下旬から九月上旬頃のことだ。

 その日は虫の音もなく、風も吹かない、じっとりとした夜だった。


 頭上では、上弦の月が、闇に染まった夜道をうっすらと照らしている。