「たれかが呪をもって空の印を解いてしまったのであろう」

「いったいたれが、何の目的で印を解いたのかな?」

「さて……。どうであろうな。故意に解いたのかも知れぬし、ちょっとした事故で解いてしまったやもしれぬ。法隆寺には何の悪意も感じなかったからね、異なる次元の者の仕業ということも考えられる」


「ふうん? 蒼、お腹空いた」

 心にとっては食欲の方が先なのだろう。蒼の言葉は、心には理解できなかったようだ。曖昧(あいまい)に頷くと、広い胸に頭を寄せ、空腹を訴えた。


「そうか、では、心が好きなニシンの煮付けでも用意するとしよう」


 ふたりは月明かりが照らす夜道を進んでいく。


 静かな夏の夜。どこからか吹く、心地良い風に吹かれながら……。



 ―大和の国より異形なものあらはる。完―