-陰陽之書-


 牛車の近くで、しわがれた声が聞こえる。

 男はいまだ猫又の頭を撫で、宥めている。

 生きた心地がしない中、主の声はようやく小さくなっていく。


 猫又が威嚇を止めた頃には、あたりにはすっかり静寂が戻っていた。

「さあ、もう大丈夫ですよ」


「ありがとうございました。助かりました。やはり貴方様は陰陽道を司る方でいらっしゃったのですね」

 やがて、蒼の言葉を合図に、伊助は引き結んでいた唇の戒めを解き、感謝の言葉を口にすると、蒼に向かって深くお辞儀をした。



「しかし、ここで帰れば、おそらくはまた『あれ』が襲ってくるでしょう。さて、どうしたものか……」

「にゃあ~」

 猫又はひと鳴きすると、男の裾を噛み、グイグイと引っ張った。

「そうだね、心。そうするとしようか」

 男は薄い唇に笑みを浮かべ、ゆっくりと頷いて見せた。