「もし、もし、お助けください!!」

 伊助は藁にもすがる思いで、闇の中を進む牛車に駆け寄った。


 牛車の中を覗けば、年の頃なら二十五歳前後。白の狩衣に身を包んでいる男がひとり。その男の膝の上には、可愛らしい子猫が身体を丸めていた。

 しかしその猫、普通の猫ではない。尾はふたつに分かれている。猫又という妖しに違いないと、伊助は思った。


 伊助は、男の姿を目にすると、どっと泣き崩れた。


「助けてください、どうかお願いです」

 伊助は男の足下まで頭を下げ、懇願した。

「どういうことなのか、お伺いいたしましょう」

 その声音はとても穏やかで、静寂にも似たものだった。

 彼の膝にいる猫又は黒の耳をヒクヒクと動かし、まるで何かを警戒しているようだ。

 もしかすると、この猫もまた、背後から差し迫ってくる『あれ』の存在に気づいているのだろうか。

 伊助の背筋が凍る。