ここで立ち去れば、逃げたことになる。
それこそ、負けを認めることだ。
奏兄に負けたくない。
瑞希を渡すことなどできない。
「……俺は瑞希が好きだ。瑞希を避けても、好きでもない女と付き合ってもダメだった」
その視線を真っ直ぐ見据えたまま、俺は言い切る。
計画のことは頭にあったけど、きっと今日この瞬間が最後なのだ。
俺が奏兄と向き合える、最後の瞬間なのだ。
「正直に言ってくれて、ありがとう。歩の幸せを俺は願ってる。今でも。自分の幸せよりも」
「偽善者。それなら、今すぐ結婚やめろ」
善人面を通り越して道化師のようだ。
そんなセリフを真顔で言えるのだから、思わず笑ってしまう。
俺の蔑みにも表情は崩さず、至極真面目に口を開く奏兄。

