最初で最後の嘘





 
 過去を過去として処理できたのは彼女のおかげ。



「嬉しいわ。ありがとう」



 その言葉とは裏腹に落ち着いて、どうでもよさそうだ。


 さすがは伊織。


 涙を流しながら抱きついてくるなんて気持ち悪い展開はない。


 だからこそ、彼女が俺には最適なのだ。


 伊織は俺のパートナーとして最良で最適。


 彼女とこのまま付き合って、結婚して、子供を育てて。


 そんな平凡な人生は、波風なく誰のことも傷つけない。


 感情を揺さぶられることがない。


 けれど、俺は正反対の選択をする。


 伊織とは正反対の瑞希を選ぶ。


 最適でも最良でもないけれど、隣にいたいと望むのは。


 小さい頃から瑞希だけだった。


 そのことに気付いたのは、これからしばらく後のことだった。