「うちに来るな。お前の顔見ると気分が悪くなる」



 ごめんなさい、とさっきより小さな声が背中越しに聞こえて拳を強く握りしめる。


 瑞希と接すると自分の気持ちの置き場所がわからなくなって、ぐちゃぐちゃになってしまう。


 部屋に入ると、視線さえ向けることなく借りてきた本を読んでいる彼女を引き寄せ滅茶苦茶なキスをした。


 やっぱり、彼女はどこまでも落ち着いていて、俺をあるがままに受け入れる。


 何も詮索しない。


 俺と瑞希のことを奇妙に思いながらも何も問うことはない。


 俺には彼女しかいない。


 そう信じていた。


 俺の本当の思いに俺自身も気付かずに、このまま彼女と一緒に過ごしていけると思っていた。


 その思い込みが壊れたのは数年後。


 時を巻き戻せるなら、と願う、二つ目の出来事。