「あ、いや、休日出勤なんかしてていいのかなって。彼氏とデートは?」

今はそんなに仕事が立て込んでいない。
丘咲さんだって、納期の迫っている案件はないはずだ。

「あー、別れちゃいました」

「あ、余計なこと言っちゃったね」

「いいです、別に。そんなに好きになれなかったってだけですから」

丘咲さんはまったく気にしていない風にさっぱりと言った。
彼女はとびきりの美人というわけではないけど、愛想も良いし、さり気なく気配りもできるタイプで笑うと可愛い。

「ということは、相手の方が丘咲を好きだったのか? やるなあ」

彼氏ができたり別れたりというのは、丘咲さんにとってさほど特別なことじゃないのかも、なんて考えていると、不意に藤白さんが感心したように会話に入ってきた。

「長い人生、一回くらいはそういうこともありますって」

「えー、私、ないよ?」

思わず本音が漏れてしまうと、丘咲さんがふふっと微笑んで意味ありげに藤白さんを見た。

「これからあるかもしれないじゃないですか。ねえ、藤白さん?」

「えっ? あっ、俺に振るなよ!」

すると、途端になぜか藤白さんが慌て出す。
どうしたんだろう?

「瀧本さん。案外、身近なところに恋は落ちてるかもしれませんよ?」

「えっ、そう?」

身近なところ、か。
ふと、脳裏に近頃の朝の光景がよぎった。
あの人と目が合う一瞬が。