「そんなことないよ。子どもの時からよくここに入り浸ってて、大学を出た後も就職せずにこの店を手伝ってたんだ。だから、じいちゃんも僕にこの店を任せてくれた」

柳さんは淡々と話した。

「あ、だからホットケーキ!」

「そう。常連さんはみんな、口をそろえて祖父の作るホットケーキは美味しかったって言うんだ。僕の代になってしばらくは業務用の冷凍ホットケーキを仕入れてたんだけど、あれじゃだめだってみんな、厳しくて」

「お客さんの舌がすっかり肥えちゃったんだね」

「そうみたい。だから、しばらくはメニューからホットケーキは消してたんだけど……」

「柳さん、ホットケーキ焼けないの? 他のメニューは自分で作ってるんでしょ?」

「うん。ピラフやカレー、スパゲッティとかはね、祖父に教えてもらってたから」

何でホットケーキだけ教わらなかったんだろう、と柳さんは漏らす。

「ホットケーキだけは作ってみてもおいしくないんだ」

「でも、そんな喫茶店のホットケーキなんて、余計に私、作れる気がしないんだけど」

ましてや、柳さんも作れないなんて。

「ううん、そんなに気負わないで」

けれど、柳さんは私を安心させるように微笑む。

「例えば高級だったり洗練されてたり、そういうのは求めてないんだ。祖父の作ってたホットケーキはとにかく素朴だった。昨日、瀧本さんが言ってたみたいな、家でお昼ご飯に食べるホットケーキとか、本当にそういう感じ。だから、一緒に作ろう」

「でも、どうして私? ど素人なんだけど」

ただ疑問で仕方ない。

「あんまり難しく考えてない。失礼になるかもしれないけど、藁にもすがる思いっていうか。まさかお客さんに教えてもらうわけにはいかないし。かといって、他に知り合いいないし」

うーんと考えて、柳さんは続ける。