「言えてる」

私も笑って振り向くと、穏やかな目をしている柳さんと目が合う。

「じゃあ、何か話したいことでもあった?」

私が尋ねると、柳さんは緩く首を左右に振って、だけど、優しい声で続ける。

「ううん、そういうわけじゃないんだけど。むしろ、どうでもいい話をしたかった」

「どうでもいい話?」

「そう。ただ、瀧本さんに話し相手になってほしかっただけなのかも」

「あ、うん。私でよければ」

「それじゃあ……、今週は仕事忙しかった?」

絶対にこれという話題ではないけど、それでも興味があるというように、柳さんが聞いてきた。

「うーん、いつも通りって感じかな」

それに対して、私もあまり中身のない返事をする。
同じように、こうして話している時間がただ心地いいと伝えたくて。

「瀧本さんは何の仕事してるの?」

それから、柳さんに聞かれて、ぽつりぽつりと自分のことを話した。
仕事のこと、『ラヴィアンローズ』に住み始めたこと、休日に何をしているか。

「仕事以外だと、だいたい家にいることが多いかなあ。柳さんはお仕事、何してるの?」

ひと通り答えた後で、私も同じように質問を返す。

「僕は……あっ、そうだ」

私の質問には答えず、ふと思いついたように柳さんが声を上げた。

「ホットケーキ、焼ける?」

「えっ?」

いきなり何だろう?

「ホットケーキ、嫌い?」

「ううん、昔はお昼に焼いたりしてたけど」

そういえば、最近はめっきり家で食べなくなったと気づく。
たまに、友人とパンケーキのお店に行くくらいだ。

「本当? じゃあ、教えてくれない? ホットケーキの焼き方」