「部長、すみません。それ、俺の責任です」

真剣味を帯びた声が近づいてきたかと思うと、私の横に並んだのは藤白さんだった。

「今、そこにいた奴にだいたいの話は聞きました。伊礼に任せろと瀧本に指示したのは俺です。そもそも俺が指摘されるまで気づかなかったのにも責任があります。申し訳ありませんでした。もっと気を付けるようにします」

「うーん、そうかい? じゃあ、次から頼んだよ」

部長は藤白さんの肩をたたくと、あっさりと「コーヒーでも飲んでくるか」と立ち去った。
部長が廊下に消えると、オフィスの空気がホッとして緩んだのが肌に伝わってきた。

「瀧本、大丈夫か?」

「はい、ありがとうございました。おかげで助かりました」

お礼を言いながらも、私はやっぱり腑に落ちない。

「瀧本は部長に気に入られてるからな」

「嫌われてるの間違いですよ。藤白さんにはあっさりなのに、私にはネチネチ」

だいたいリンクミスなら、気づいた時点ですぐ伊礼さんに修正してもらえばいいのに。
ランチから戻ってくる私を待ち構えるようにまだ修正されてないというのが、どうしても引っかかってしまう。

「いや、部長はネチネチするのが好きなんだ。その格好の相手がお前だ。だから、気に入られてる」

「意味わかんないです、それ」

「瀧本さん、すみませんでした!」

藤白さんに険しい表情を向けていると、そこへ戻ってきた伊礼さんが青い顔をして頭を下げた。
伊礼さんは基本真面目だし、よくできた後輩だ。こんなミスも珍しい。

「もういいよ。終わったし。部長の言うことももっともだし、お互いに気をつけよう」

「はい、気をつけます」

泣きそうな顔をしている伊礼さんの背中をたたいて励ました。

席に戻ると、丘咲さんが笑いながら声をかけてくる。

「藤白さん、かっこ良かったですよ。しっかりと後輩をかばって」

「別に普通だ」

やけにむすっとして言う藤白さんに、丘咲さんは一人何やらニヤニヤしていた。