子供じみた肉の取り合い。

「あっ、それ私の」

「柚月はこっち」

焼けるのを待っていた牛カルビを悠に取られ、代わりに焼けた野菜が目の前に置かれた。

「今日は、私のお祝いなんだからカルビ返して」

「それを食べたらな…」

「なんでよ」

「さっきから肉ばっかりで野菜全然食べてないだろう。…『太るぞ』」

ボソッと私にしか聞こえない声で毒吐く。

太らないもん。

頬を膨らませ悠を睨みながら野菜を取った。

突如、ケラケラと笑いだす悠。

「ど、どうしたの⁈」

母と私の問いに

「いや…相変わらず怒ると頬が膨れるんだと思って…」

「そうなの。怒るとすぐわかるのよね」

母も私の顔を見て笑い出した。

「怒ってないもん。ただ、悠がいじわるするから睨んだだけだし…」

「柚月は、すぐに顔に出るからな…」

「そうなのよね」

「もう、いらない。ごちそうさま」

お風呂に向かう私の背の向こうで

『逃げたな』

逃げたわね』

2人でケラケラと笑いあっていた。

お風呂からあがりパジャマに着替えて脱衣所から出ると悠が立っている。

「な、なんでそこにいるのよ」

「明日から行きも帰りも一緒に帰るぞ。7時半に迎えに来るからな」

「遠慮します」

ドスンと壁を叩く悠に体がビクッとなる。

「柚月に拒否権ないから」

「な、なんでよ」

悠は、一歩一歩と距離を詰めてくるから後ずさる。

「社会人初日で痴漢にあう柚月ってどうなの⁇」

「どうって言われても…」

壁際に追いやられ鼻先が触れそうな距離
に思わず目を閉じてしまった。

イタッ

デコピンされ目を開けると意地悪く笑う悠の顔があった。

「そうやってスキがありすぎだから付け入れられる。俺が側にいてお前を守ってやるよ」

そう言うと手をヒラヒラさせて背を向け歩き出した。

守ってやるよって…なんなの⁇

悠なんかに守ってもらわなくても大丈夫なんだから…

ベーと舌を出した時に悠が振り向いた。

眉間をピクっとさせて鋭い視線に慌てて舌をしまう。

「明日、約束の飲み会だからな。忘れずに友達に言っておけよ」

人差し指を私に向け

「逃げたらどうなるかわかってるよな」

蛇に睨まれた蛙じゃないけど…意地悪く微笑む悠に身震いがした。

「も、もちろんわかってるわよ。明日、楽しみだな」

フンと鼻先で笑い私の答えに満足したのか帰って行った。