「雪華、帰ろー?」
「あ。うん。」
私、冬村雪華に話しかけてきたのは一応彼氏の育田叶翔。
おっちょこちょいで天然で。
だけど顔とスタイルは最高の彼。
叶翔と出会ったのは中2の冬。
その日は雪が降っていた。
私が登校途中、公園で休んでいたとき、
後ろから声をかけられた。
『あっ…あの。冬村さん。』
『なに。』
知らない人に声をかけられてびっくりしたな。
しかも急に
『好きです。俺と付き合ってください。』
なんて言うんだから。
中学最後の年くらい彼氏がいた方が思い出が残りそうだったから、
『いいよ。』
と、あっさりOKした。
叶翔はすごく喜んだ。
一緒に手を繋いで登校した私たちを見て、みんなはびっくりしていたっけ。
今思い出せば懐かしい思い出だ。
成り行きで付き合ってただいま高1。
1年ちょっとの付き合いになった。
実際付き合ったとき叶翔に特別な感情があるわけでもなかった。
だけど、叶翔はあの時からずっと私の隣にいる。
なんだか不思議だな。
「雪華?具合悪いの?ぼーっとして。」
叶翔が私の顔をのぞく。
「平気。はやく帰ろ、眠いから。」
そう言うと叶翔は私の手を掴む。
叶翔の手は大きい。私の手を包み込むような安心する手。
「ん?俺の手へん?」
「いや。なんでもない。」
帰り道は他愛も無い話を永遠と話すだけ。
最近はデートの話さえもなくなった。
出かけるということも最近はしていない。
「ねえ。叶翔。」
「雪華から話しかけるなんて珍しいじゃん!なに?」
叶翔の目が一瞬で輝いた。
どうやら叶翔は私のことが本当に好きらしい。
まあ、そんなのどうでもいいけど。
「最近、忙しいの?」
思い切って聞いてみた。
すると、叶翔の顔が暗くなった。
「あー。えっとねー。うん。まぁ、忙しーかな?」
「そっか。」
「う、うん。ごめんね。お出かけしたいよね。」
「いや、別にどっちでも。」
「えー。ひどーい。」
そんな話をしている間にあっという間に家。
「じゃあ、また明日、叶翔。寝坊しないでね。遅刻はヤダよ。」
「へーい。また明日!」
叶翔が歩き始めればすぐに家に入る。
靴を脱ぎすて、部屋へ向かう。
制服から部屋着に着替えてベットに転がった。
私っていつまでこんな付き合い方してるんだろう。
最近、そう思う事が増えた。
叶翔はかっこいいし、かわいいし、性格も悪くない。
学校でも男女問わず人気者。
成績優秀。なにもかもが完璧な人。
そんな彼が中途半端な気持ちの私と付き合っていていいのだろうか。
叶翔の事を考えれば別れることが1番だと思う。
だけど、心のどこかで別れることを自分自身が嫌がっている…気がする。
「はー。どーしよ。」
気づけば私は深い眠りについていた。
ブブーブブー。
ケータイの音で目が覚めた。
時刻は夜の10時過ぎ。
メール着信1件と表示されたケータイを手に取る。
送ってきたのは叶翔だった。
『今からさ、会える?できたらでいいんだけど。』
私はすぐに返信した。
『場所による。』
っと。叶翔は返信が早いからその場で待機。
ブブーッブブーッ
「うわっ!」
急な着信に手からケータイが落ちる。
着信は叶翔からだった。
「もしもし」
『雪華ー?場所どこだったら会ってくれるー?』
「なんで電話にしたの。メールしてたじゃん。」
『メールより楽だろ?』
「ふーん。じゃあゆり公園だったらいいよ。」
『ゆり公園ね。わかったじゃあ今から行く!』
「分かった。じゃーね。」
ゆり公園は2人の思い出の場所。
出会ったのも初めて手を繋いだのも初めてキスをしたのもゆり公園だった。
記念日には必ず訪れる公園。
実は、家の目の前。
ただ、移動が面倒だった。
でもいいチャンスだ。
思い出の場所で別れよう。うん。
私がベンチで待っていると走って叶翔が来た。
「遅くなってゴメン。暗くて道迷った!」
「ばーか。」
叶翔が隣に座る。息切れがすごい。
「なんで急に会いたいとか、どうした。」
そこが1番気になった。
いままでこんなことはなかったから。
「ねぇ、今日何日か知ってる?」
「え。ケータイ見ればわかるけど。」
記念日ではない、ケータイを見ると5月4日。
5月4日…5月4日…
「あ。」
「思い出した?」
私の記憶が正しければ
「叶翔の誕生日」
「ピンポーン!何も言ってくれないから悲しかったの!」
「そっか、ごめん。おめでと叶翔。」
「ありがとー!」
照れくさそうに顔を赤らめながら笑っていた。
「でね、俺雪華にプレゼントがあるんだ!」
「え?誕生日なのに?」
叶翔が出したのは小さな箱。
いかにも高そうな。
「開けてみてよ。」
リボンをほどき箱を開けてみるとネックレスが入っていた。
「わ。かわいい。」
「でしょ?それシリーズものなんだ!」
「シリーズ?」
「うん。そのネックレスとピアスと指輪がセットなの。」
「ふーん。」
きっと1番安いのを買ったんだろうそう思った。
「だから、来年の誕生日はピアスあげる。」
「どーも。」
「で、再来年俺の18歳の誕生日俺は雪華に」
「なに。」
「指輪と一緒にプロポーズするよ。」
想定外だった。まさかそんな話だとは。
でも私は計画を実行した。
「うん叶翔ありがと。ネックレス大事にするだけど…」
続き、続きを言わなきゃ
「ん?それ気に入らない?」
「来年からは受け取れない。」
叶翔が私の顔をのぞく。
「お金なら平気。すぐたまるから。」
「そうじゃない。」
叶翔の顔がどんどん暗くなっていく。
「別れよう。私たち。」
そのとたん口がふさがれた。
「嫌だ、なんで?俺何がダメだった?言ってくれれば直すからねえ。」
叶翔が泣いてる。どうして?
私は思っていることを全て話した。
「叶翔に告白されたとき叶翔の事知らなかったし、本当は好きでもなんでもなかった。
きっと今も変わらないと思う。叶翔はやっぱりこんな中途半端な私よりもっと
素敵な人がいるはず。だからごめん。別れよう。」
叶翔の手が私の手から離れていく。
「それが雪華の本音なの?」
本音。そういわれると自信がないけど
「うん。本音。」
「そ…っか。俺だけだったんだ。両想いになれて舞い上がってたの。
プロポーズなんて言ってらんないよね。」
叶翔はゆっくりと立ち上がり私の方を向く。
「今までありがとう。でも最後位わがままを許してね。」
そう言うと叶翔はそっと私にキスをした。
「これで終わり。じゃあ俺家に帰るよ。さよなら冬村さん。」
「さよなら育田君。」
これでいいんだこれで。
叶翔が居なくなった公園で1人泣いた。
どうして涙が出るんだろう。叶翔の事好きじゃないのに。
涙が止まらないよ。
急いで家に帰り私はネックレスを戸棚にしまった。
