しかし、その後すぐにチャンスはめぐってきた。
お菓子の材料を果樹園まで採りに行くことになったのだ。



(そうだ!馬車の中でお礼を言おう!)

リーズがそう考えた直後のことだった。



「暇だから、あたしも行くよ!」

サリーがそんなことを言い出したのだ。



「……では、私も…」

何かトラブルでもおこってはいけないと気を利かせたヴェールもついていくことになった。



「それにしても、レヴの家にはなんでもあるんだね…」

「なんでもというわけではないがな…」

「なんでもだよ!
果樹園まであるとは思わなかったよ。」

「私も両親も果物が好きなものでな。
リーズさん、今日はどんな果物が必要ですか?」

「え…そうですね。
チェリーと…」

「ねぇ、レヴ!
帰ったら町の方へ連れていっておくれよ。
なんなら、馬にのせてくれても良いけどさ。」

またしても、サリーが二人の会話の邪魔をする。



「今日は私は読みたい本があるのだが…」

「本なんて辛気臭いものはやめて外へ遊びに行こうよ!」

「外なら今来てるではないか。」

「果物採りなんてつまらないよ。
まだ町の方には行ってないしさ。町に行きたいんだよ。」

「サリーさん、私とでかけましょうか?」

「なんでだよ。
あたしはレヴと一緒に出かけたいんだよ。」

「……その件はまた後で考えるとしよう。
そろそろ着くぞ。」



果樹園に着くと、使用人達が一行を出迎えた。

サリーは相変わらず、レヴがリーズになにか話しかけようとすると邪魔をする。

サリーのその態度に、リーズはここでレヴに白百合のお礼を言うことは無理だと諦めた。

使用人のヨセフに果樹園を案内してもらうことにした。
ヴェールも付き添い、材料になりそうなものを次々とバスケットに入れていく。

レヴとサリーは、木陰のベンチで休んでいた。



「ねぇ、レヴ…」

「なんだ?
…最近の君はまるで人が変わったみたいだな。」

「何がだよ?」

「なにかというと、私につきまとうようなことばかりするではないか。
一体、どうしたというんだ?」

「よく言うよ!
あんたこそ、やたらとあの娘に気を遣って優しくしてるじゃないか?! 」

「リーズさんのことを言ってるのか?
リーズさんはヨハンさんの妹さんなんだぞ。
ヨハンさんはフレデリックの親しい友人だ。
もてなすのは当然のことだろう。」

「本当にそれだけのことかい?」

「本当も何も…他になにがあるというんだ?」

「でも、リーズは…」

「なんだ?」

不思議そうに、そう問いかけるレヴを見て、サリーは複雑な想いを感じた。



「……なんでもないよ。」

「おかしな奴だな…」



(…あんた、本当に鈍いよ…
リーズがあんたのことを好きだってことは、誰だってわかってるのに…)