イイコでしょ?

「…帰したくねぇんだけど。ダメ?」





「…カズにぃ何言って…」





分からない。



カズにぃが何でそんな苦しそうに笑うのか。



分からないよ…






「美希…」






フワリと名前を呼ばれ、



心臓がまた、トクン、と鳴った。






「俺が間違ってた。」






私は静かに、カズにぃの言葉に耳を傾ける。






「あの時無理やりにでも美希をNYに連れて行くべきだった。」






「カズにぃ…」






そんな顔しないで。


そんな顔でそんな事言わないで。


胸が苦しい…息が出来ない。






「偽装結婚なんてバカな事…」





言葉を濁して俯いたカズにぃ。




繋がれた右手を、そっと握り返してやる。






カズにぃ。






心で名前を呼ぶ。



当たり前のように私に視線を向ける。



皮肉なもんだよね。



あんなに大好きだった頃は、何度心で呼んだって応えてはくれなかったのに。



皮肉なもんだよ。





ずっと苦しそうな表情のカズにぃの固まった頬に、掌で触れる。





温度のないからっぽな指輪が、カズにぃの頬で、キラリと光った。





「巻き戻せねぇかな?あの頃に。」





聞きたくない。


お願いだから言わないで。


今の私には酷過ぎるよ。


ズルいよ。


遅れてやって来た、


私の王子様。






視界がボヤけ、下唇をグッと噛んだ。






「キス、していい?」








唇を噛んだまま、黙り込む私。


何で答えない。


ちゃんとダメって、拒否しなきゃ。


からっぽな指輪を見せて、私は大丈夫って。


笑って見せなきゃ。






「美希…」






オデコが重なる。



息が顔にかかる。



鼻が僅かに触れ合うと…






______~~~♪






唇が触れる間際、鳴り響くケータイの着信音。





ピクリと動きを止め、自分のケータイだと認識する。






カバンに入れっ放しのそれは、まるで見ていたかのようなタイミングで鳴り、心がざわついた。








「出ないで?」






「…でも…」






「お願い。やっと手に入れたんだ…離れたくない。」






「…カズにぃ。」






そんな苦しい表情で見つめられると…