イイコでしょ?

何も乗ってないおぼんを両手で持ちながら、トイレへ向かった。






なに?今の。






便器にガクンと腰を下ろして、やっと力が抜ける。






力が抜けると言うか、魂まで抜けてしまったようで。






天を仰いでも、複雑に絡まった糸は解けなくて。






抜けた魂までもがため息をついてしまうようだった。






成瀬副社長?














「この人が、僕の結婚したい相手です。」




しっかりと私の目を見てそう言った。





それは確かだ。





そのセリフが、ずっと頭に渦巻いてるから。






逆に言えば、それ以外何も頭に入って来なかった。






結婚?





ちゃんと話した事も無いのに?






わかんないわかんないわかんない…






頭がパンクしそう。






そんな事あるハズ無い!と思いつつも、彼のあの眼差しを思い出してはきゅぅぅ、と胸を締め付けられた。






ダメだ…こんなとこでぼんやりしてる場合じゃない。





仕事もどらなきゃ海崎さんが心配しちゃう。






たくさんの疑問を残したまま、手を洗いトイレを出た。















「なげぇな。ウンコ?」






そんな声が突然聞こえてきて、驚き身体がビクッと跳ね上がる。





壁にもたれ腕を組んだ彼がククッと笑って、目を丸めた私を見下ろす。





「…っ!?副社長…あのさっきの…」





「その事言いに、わざわざウンコ待ちしてやってたんだけど?」






「ウーーー?!しっしてませんよ!!」






「どっちでもいいけどさ。あんた、派遣社員なんだって?」






淡々と言葉を紡ぐ彼が、私のイメージとは違うような…





違和感。





「はい。もう少しで終わりなんですけどね。」






「社員にしてやるよ。」






「えっ?本当ですか?」






突然の昇格に思わず顔がほころぶ、が、次の瞬間笑顔が固まる。






「あぁ。その代わり、俺と結婚しろ。」






「…それはどういう…」






「文字通り。プロポーズしてんの。」






説明するのがめんどくさいのか、イライラした様子で話を進める。





話について行けない私は、ポツンと暗い部屋に置いてけぼりを食らったように、無意味にキョロキョロとした。