イイコでしょ?

「あ……。」






「あ……。」






翌日の休憩中、トイレの個室から出ると、隣の個室から同時に出て来た井上さんと鏡ごしで視線がぶつかった。





お互い貼り付けたような笑顔をして軽く頭を下げると、同時に手を洗う。





別に普通にしてればいいのに…




なんか意識しちゃって、ヤダなぁ。







早く洗ってその場を去ろうとしていたのに、私の足は井上さんの言葉に引き止められる。






「あなた…すごく愛されてるわね。羨ましいわ。」





気まずく俯いていた頭を上げ、鏡の中の井上さんを見た。




相変わらず素敵で、キリッとした眉。




その眉を少し落として柔らかく笑った。






「私も、あなたみたいに大切な人に愛されたいわ。」






「大切な人」とは翔さんの事なのかな。




そう思うと何て返せばいいのか答えに迷い、ただ俯くしか出来なかった。






「あ、ごめんなさい!なんか誤解を招く言い方だったかしら?」





「へ?」





「あなたの旦那さまの事は、もう諦めがついてるから。安心して?」





「あの、えっ?…はい。あ、ありがとう、ございました?」





「ふふ。なんであなたがお礼言うの。謝らなきゃならないのは中々諦めつかなかった私の方なのに。」





「人の気持ちなんてどうにも出来ませんからね。ライバルが居なくなってホッとしました」
















完璧な人が、私を羨ましいと言って笑った。




完璧な人が、私になりたいって言って笑った。






私はあなたみたいになりたかったです。





そう言うと、





疲れるだけよ。って言って笑った。






その疲れを、浄化してくれるような、


完璧じゃない姿を躊躇なく晒せるような、





そんな人に早く出会えればいいな、なんて思ったら余計なお世話なんだろう。





でもそう思わずにいられなかった。






「あなたと今度、食事したいんだけど…」





「ぜひ!私も井上さんがどこでスーツ買ってるのか聞きたかったんです!」






良かった!といって可愛い笑顔を見せた井上さんに、またドキッとさせられて、私たちは食事の約束をしてお互い仕事へ戻った。