イイコでしょ?

「あれ覚えてる?」





「なに?」





「昔、美希がクラスの男子に告られて、泣きながら俺ん家来た時の事。」





「うゎ…今その話しちゃうの?もう思い出したくないんだけどー!」





嫌な思い出を引っ張り出されてテンションがガクンと落ちる。





そんな私を見てヘラヘラと笑うカズにぃは、私の頭をまたヨシヨシと撫でた。





「どうしたらいいかわかんないっつってビービー泣いて、俺がアドバイスしたら…」





「もーーー!!言わなくてイイからっ!!」





ペラペラと動く口を慌てて両手で塞いだ。





だって、思い出したくないよ、あんなの。





カズにぃが彼氏の役して相手に諦めてもらったなんて悲しい過去…





その時の私は、カズにぃが彼氏役なんて嬉しくて舞い上がって…





でも終わった直後に虚しくなって辛くって…





好きな人に彼氏役やってもらうほど、辛い事ないんだなって、その時痛い程理解した。






口を塞いだ私の手を、カズにぃが引き剥がすと、私の左手を掴んだまま離さないカズにぃ。





「どしたの?」






カズにぃが見つめる先にあったのは、薬指に光る、偽りの結婚指輪。






「……結婚、してんの?」






突然空気が変わったような気がして不思議に思ったけど、気にせず会話を続けた。





「カズにぃは最近向こうの支社から帰って来たから知らないんだね。」






「なにが?」





「副社長の成瀬さんと、結婚したんだ。」






こうやって改めて言うのも、なんだか違和感で、やっぱ偽りでしかないんだな…と切なくなった。






黙り込んだカズにぃの顔を覗き込む。





「カーズにぃ?どうかした?」






それに気付いたカズにぃが、掴んでいた私の左手をパッと離して、私にあの笑顔を向けた。





私の大好きだったあの柔らかい笑顔で、おめでとう、と言って頭をポンポンと撫でてくれた。





別にめでたくもない結婚なんだけど…と心の中で皮肉って、カズにぃには笑ってありがと!と答えた。