『……聞いているのか』
再び声がしました。

状況が分からず、混乱しているうちに、返事をするのをすっかり忘れてしまったのです。
電話の向こうの人が、何をしようとしているのかは、一切想像できませんが、今は大人しく、相手に答えるほかありません。

「そうですが……? あなたは誰なのですか」
尋ねる声は、僅かに震えました。
が、数秒待っても、返答はありませんでした。

かわりに、
『水瀬綺月は預かった』
と低く唸るように呟いたのです。