秀喜はというと、ウンチク王の工藤が言っていた手元のパンフレットを読みはじめている。
 僕はイヤホンを耳につけて、昔の映画を見始めた。
 とはいえ、映画もアニメも見たものばかりで、すぐに飽きてしまう。少しくらい重くても、暇潰しに本でも持ってくればよかったと、今更ながら後悔した。
 イヤホンを取って横を向くと、秀喜と目が合った。秀喜も暇を持て余している様子で、窓の外をずっと眺め続けていたようだ。
「飛行機の中じゃ、電波飛ばす携帯ゲームもメールも出来ないから暇だよなー。二人じゃ、トランプもつまらねーし。それに窓の外だって、見えるのは雲ばっか……」
「……どれくらいの高さで飛んでるんだろう。陸地が見えないから、わからないなぁ」
 何気ない話で時間を潰すしかないと思い、秀喜に口調を合わせる。
「高度一万千ぐらいだろうね。この機体なら、それが最適高度らしいから……」
 後ろの座席から、突然、声が聞こえた。振り返ると工藤が、こちらを覗きこんでいる。
 工藤も暇なのか、僕たちの話を聞くなり、大好きなウンチク語りを開始したのだ。僕等も後部座席を覗きこむと、工藤の隣にいる田中が熟睡しているのが見えた。
 無理もない。明日、海外旅行で飛行機に乗るという思いがあれば、誰であっても寝つけないはずだ。田中は英気を養うため、不足した睡眠時間を取っているのだ。
 僕も睡眠不足だし、異常なまでに襲いかかってくる睡魔を我慢しているのは、修学旅行という『ノリ』で目を開け続けているからに過ぎない。
 通路に頭を出して奥を見ると、何人かの生徒は目を閉じていて、担任もいびきをかいて寝ているのが見えた。
 通路越しにいる笹田が何をしているのか気になって見ると、台の上にオセロゲームを開いて遊んでいる。奥の窓には曇ったガラスに、大量のマルバツゲームの跡があった。
 暇な時間を潰す能力に関しては、僕たちより女子のほうが得意らしい。
 鉛筆片手に絵を書く姿があったり、古今東西ゲームをする声も聞こえる。
「俺も少し寝るよ……向こうに着けば着いたで疲れるだろうし……」
 秀喜は言うと、座席を少し傾けて目を閉じてしまった。
 傾いた座席の隙間から視線を感じてみれば、ウンチクを語り切れずに不服そうな、工藤と目が合う。
 ただの肩書でも僕は班長だから、同じ班の工藤の機嫌は取っておこうと考える。
 「工藤の話、興味あるから少し聞かせてよ」
 僕が言うと、工藤は満面の笑みを浮かべて飛行機の仕組みを語り始めた。