次に僕が目を覚ました場所は、薬品の臭いが立ちこめる室内だった。
 しかし、目の前には心配そうに覗きこむ父と母の姿がある。
「……父さんに母さん? なんでここに……?」
 訊くと母は僕を急に抱きしめて泣いた。体の所々が痛い。
 ――と、秀喜や笹田のことを思い出して周りを見た。ベッドがいくつか見える。誰なのかわからないが、寝ている人が見えた。
「秀喜たちは? みんなは無事なの?」
 父と母は困惑する。あまりいい知らせではないらしい。
「秀喜くんは無事よ。だけど、何人かの生徒さんたちは……」
 母の口からでなく、数日後に僕は取材にきた記者から全てを聞くこととなった。
 成田から目的地に飛んだ僕たちの飛行機は、目的地の空港着陸直前に空軍機と接触した。
 機長の冷静な判断で機は着陸したが、直後に炎上したらしい。何人かは自力で逃げ出し、気絶していた生存者も救助隊の迅速な働きで救われた。
 機に接触した空軍のパイロットは死亡。旅客機に乗っていた乗客の大半は救助されたが、生存者に先生と宮本の名前はなかった。
 席に座って叫んでいた鈴木と田淵は重体。
 秀喜と工藤、笹田は軽い火傷をしているが、命に別条はないとの話であった。
 僕も秀喜と同じくらいの火傷だったが、検査もあるとのことで数日入院が決まった。
 さて――今になって思う。あれはあの世に向かう機だったのではないかと……。
 僕等は声を上げて逃げることができたが、宮本はこれを拒んだ。鈴木は席に座った中途半端な体勢だったのでどちらにも行けなかった。だから、機の目的地である場所に到着してしまったのだ。
 おそらく場所は――三途の川。
 目的地に案内しますと言われて、宮本は先生と川を渡ってしまったに違いない。
 いや、そもそもあの機に目的地はあったのだろうか?
 僕や秀喜たち、軽い火傷だったグループは数週間後退院して日本に戻った。
 もう二度とあんな目に遭いたくない。そんな怖さで帰りは飛行機ではなく、船を選んだ。
 が、数週間後――僕たちはある噂を聞いた。
 あの現場上空を飛んでいると、正体不明の黄金色に光る飛行機が、ゆっくりと近づいてくるという話だ。
 無線で問いかけても反応がないその機体は、通り過ぎた途端、霧のように消えてしまうという。
 まだ、あの飛行機は目的地を求めて飛んでいるのだろうか。
 もし、会う時があるのなら答えないほうがいいのだろう。きっと違う場所に連れていかれてしまうのかもしれない。