柔らかなピンクと心地よい風を引き連れて、今年もまた春がここにやって来た。新入生たちはこれから始まる高校生活に期待を寄せた目で校門をくぐってくる。
「キラキラした純粋な目をした子たちばっかりだね~まるで二年前の七海のよう。」
「比喩表現下手くそか。あいにく二年前も今も純粋な目は持ってませーん。美夏の少女漫画脳はお変わりなくて何より。」
「おっと、厳しいね〜七海ちゃん。そんなんじゃ彼氏出来ないぞ♡」
彼氏……嫌な思いでしかない。束縛彼氏と別れて一年経った今でも、あの光景は鮮明に思い出される。そんな思いをするならもう彼氏なんて……。ダメだダメだ。この事を考えるとキリがない。むしろ危ない。制御が効かなくなってしまう。落ち着こう。
「そ、れ、で?」
「ん?何?私なんか言った?」
「イケメン見つけた!?七海の彼氏候補はどこかな〜」
「いらねーよ。しばらく彼氏はいらない。それに年下とか絶対無理。」
年下とか変に気使うじゃん。無理無理。そんなの嫌。気使うの嫌いなんだよなー……。
「じゃぁそこは!幼なじみに加えてこの美形!そのうえイケボでスポーツ万能!勉強も出来る神に選ばれし俺、左右田陸斗がお前の彼氏になってやろう!」
「却下。お前だけはないわ。その最低男。十秒以内に私の視界から消えな。」
左右田。こいつだけは気にくわない。こいつにはろくな噂がない。大学生と付き合ったとか、後輩と付き合ったとか、二股疑惑なんてしょっちゅうだ。こんなのが幼なじみなのが天から授かった私の人生の汚点だ。
「じゃぁ、七海はどんなやつがいいんだよ。俺よりイケメンで神に選ばれしものなんてそうそういないだろ?」
理想の彼氏ねー……。消去法で行くと
1,束縛が激しくない
2,タバコは吸わない
3,年上
の三つだけど……。一番ベタだけど思うのは『ありのままの私を好きになってくれる人』になっちゃうんだよなぁ……。そんな物好きがいたらこの世は終わると思うけど。
「七海〜うちも知りたい〜。」
美夏のブリっ子モードに入るともう嘘は通用しない。思ったことを素直に言うしか……。チッ。なんで左右田がいるんだよ……。
「優しい人。あと、過去のことを気にしないでくれる人。」
…………………………………。
空気が冷たくなった。三人の周りだけ外気より五度ほど低くなった気がした。
「そ、それならやっぱり俺が適任だな!俺優しいし!そういえばこの前、捨て猫がいてさ、思わず餌あげて、頭撫でちまったよ!」
「拓也なら家につれて帰る。」 拓也……。私の元カレ。もう二度と会いたくないけど、私はまだ彼の感覚を覚えてる。もう半年以上前の出来事なのに……。
「うちだったら七海のこと呼ぶな!そして、そして……。」
ついに親友に言葉を失わせてしまった。これだからダメなんだ。
「ごめん。気使わせたね。」
「そ、そんなことないぞ!神から選ばれてる俺からすればトークの一つ二つ軽くこなせるぞ!!」
動揺しているのがバレていないとでも思っているのか、いつもより大きな声で早口で左右田が話していると、
「よく回る口だなぁ。いっそ新入生歓迎会のスピーチやってみないか?」