二人で乗り込んだのは通勤ラッシュの満員電車。



電車の隅に立つ私は目の前の一ノ瀬さんの胸板が目の前にある状況。





私の横に手をつく一ノ瀬さん。





…壁ドンですか。





半ば苦笑いしながらも、

時々鼻先に当たる彼のシャツの香りにドキドキした。




「次の次」





口パクでそう伝えてきた一ノ瀬さんは多分、この車内で一番かっこいい。





小さく頷きながら彼の胸板に頭をコツンとぶつけた。







やっと満員電車から出ると大きく溜息をつく一ノ瀬さん。


額に光る汗を片手で拭きながら私を見た。






「駅出るとすぐだから、家。」





『絶対立派なんだろうな。…一ノ瀬さんの家。』






「お前ごときから見ればそうだろうな。」





そんな事を真顔で言えるこの人はどんな家庭で育ったのだろう。






幼稚園から一流の大学の付属に入園して、


一流の大学に現役で入学して現役で卒業。



そして一流の職場に就職。



この若さで部長まで上り詰めた。








頭の中でなんとなく一ノ瀬さんの歴史を整理した所で思う。



…プライド高そ。

だからいつもあんなに上から目線でものを言うんだろう。






やっぱり私なんかが隣にいるのを疑問に思いながらも
スーツ姿の彼の背中を追いかけた。







『帰したくねぇ』







この言葉の意味を考えながら。