『…もう、戻ります?』



「は?」





小さく零れた本音に
呆れたような一ノ瀬さんの返事。





当たり前だね。




私よりずっと忙しいもん。




きっと、やる事だって沢山残ってるんだから早く戻りたいはず。





…私のわがままになんて、
付き合ってられないね。





『…ごめんなさい。なんでもないですよ?』




一生懸命笑顔を作って一ノ瀬さんに向けても、



…その顔から不安は消えなかった。





私が小さく首を傾げて見せると一ノ瀬さんからは溜息が漏れた。




「…しょうがねぇな。
そんな顔でオフィスに居ても邪魔くせぇし。
近くの雑貨屋。覗いてくか。」




そう言いながら私より先に違うビルに足を向ける一ノ瀬さんを




スキップしそうな足取りで追いかけた。






『やったぁ!ありがとうございます。』





ニッコニコの私に見せる彼の顔は苦笑い。





「少しだけだからな。
気が済んだらさっさと帰れ。

ただでさえ業績悪い癖に。
これ以上悪くなったらマジでクビ切るぞ」




『…うぅっ…』




言い返す言葉もない私は一ノ瀬さんの背中を静かに追いかけるしか出来ない。




冷たいなぁ。

少しくらい、ね?



もっと楽しい風景気を作ってくれてもいいじゃない。






もっとも、
私にブーブー言える権利なんて無いのだけど。






「5000円以内なら、買ってやってもいい。」





そう言って買い物かごを投げてくれる彼が好きなのは私だし。