高級マンションの一室は、不穏な空気で包まれていた。
「まだ、菊千代から連絡は来ないのか?」
「は、すみません!社長!」
「社長だぁ・・・!?」
「あ、いえ!田渕組長!」
立派な椅子に座る相手に、若い部下が頭を下げる。
これに、頭を下げられている側は、顔をゆがめる。
(菊千代め・・・やりやがって・・・!)
表向きは不動産や、裏ではヤクザである田渕だった。
自宅の自分の部屋に、側近を含めた部下数名を待機させていた。
ヒノキを作った柱には、クマのはく製が飾られている。
中身をくりぬいたトラの抜けがらに、海外から取り寄せた絨毯。
年代物の日本刀や古い壺なども置かれている。
今、座っているのは、オーダーメードをした椅子。
その椅子と合わせて注文したのが、大理石の机だ。
普段は書類などの仕事道具を置いているが、今あるのは電子機器1台のみ。
「オヤジさん、つながりました。」
「そうか。」
パソコン画面を触っていた若い衆の言葉に、男はうなずく。
無表情で、変化のない男だったが、画面が切り替わった瞬間言った。
「何の真似だ、菊千代。」
〈そんな怖い顔しないでよ、田渕の『叔父さん』?〉
電話状態になった画面に映るのは、ヘビのタトゥーを入れた若者。
見知っている男がヘラヘラしながら言った。
〈聞いたよ、おじさん。若い男に夢中になって、仕事が進んでないんだって?〉
「・・・。」
〈無視しないでよ!真田瑞希ちゃんだっけ?つれないし、振り向いてもらえないんでしょう?〉
「・・・。」
〈はいはい、しゃべらないのねー?いいよ、別に。それよりさ~良い物見せてあげー?〉
「瑞希をさらったのか?」
田渕の問いに相手は黙る。
組長には、蛇塚がどんな用件で連絡してきたかわかっていた。
愛しい瑞希の動きを、常に監視していることもあって、察しはついていた。
(うちの組員は優秀だからな・・・!)
間違いはねぇ。
〔★間違いなく、組織ぐるみのストーカーだ★〕


