「社先生は、事務所50周年の打ち合わせに来てるんですよね?」


「打ち合わせすればするほど胃が痛くなるよ」


「君より事務所社長の方が大変ですけど」


「それは失礼しました」


口は滑らかだけど、肝心の手が動いてないような。


せっかくのホワイトボードが仕事してないよ。


「50周年より杏ちゃんの10周年記念の方が先だよ」


「私の記念はどうでもいいですよ」


「いやいや。事務所としては孤軍奮闘の杏ちゃんを祝う準備は用意してるよ。まだまだこの先も頑張ってもらわないといけないしね」


社先生がホワイトボードに近づいた。


何か思いついたかとわくわくしたけど、すぐにソファーに腰をおろしてしまった。


とっさにひらめく力を私も身につけたい。


段取りを組んで、入念に根回しするのがこれまでやってきたことだ。