悠馬のせいでチャイムが鳴ったことに気づけなかったんだろう。
そうでなければ、今ここに彼が現れるはずがない。
何をしているのかと問いただした声の主に、悠馬が私の腕を掴んだまま答える。
「何って見ての通りだよ。わかるでしょ、椎名せんせー?」
冷たさと苛立ちを含んだ声で返された椎名先生は、冷静さを保ったまま目を座らせた。
「ああ、わかるな。宮原が嫌がっているのが」
私に視線をよこした先生は、続けて唇を開く。
「手を離してやれ。宮原は具合が悪くてここに来ているはずだ」
強く咎めるよう言い方でもなく、蔑むでもなく。
先生は、授業を進めている時と変わらないトーンで悠馬を嗜めた。
悠馬は面倒そうに息を吐き出し「……へいへい」と先生の言葉に従い私の腕を解放する。
その、直後。
「遥」
名を呼ばれ、まだ少し強張っている身体を更に強張らせた私。