「しい、な?」

「……"先生"だろう」


呆れの混じった声で注意される。

そこでやっと、自分が助けられたことを悟った。


私の腹部に回された腕は、一見細く見える彼にしては逞しく。

鼻をくすぐるコロンの香りは、柔らかく爽やかで。

踏み外したままの右足を階段に乗せ、バランスが取れるようになると、私はようやく安堵の息を吐き出した。

すると、それを合図にしたように離れていく腕と香り。


私は、私より2段ほど上にいる彼を見上げた。


間一髪で私を助けてくれたこの人は、この高校の数学教師、椎名 要(しいな かなめ)。

容姿端麗でクール。

まだ20代半ばの若い教師で、女生徒からの人気が高く告白されることもあるとかないとか。


まあ確かに……イケメンだよね。


私も入学して間もなく、椎名先生を初めて見た時はちょっと興奮したし。