「それより、もしまたわからない部分があれば授業中でも遠慮なく聞くように」


そのままにせず、疑問はそこで解消しろといいたいのだろう。

私が「はーい」と返事すると、今度は教頭先生が「椎名先生、ちょっと」と、自分のデスクに座ったまま手招きをしていた。


「はい。……じゃあな」


短い別れの言葉を残し、椎名先生は教頭先生の元に向かう。

残された私は、いまだ手にしているクッキーの入った紙袋をそっと見つめた。


「……ホント、タイミング悪いな」


宝生先生のケーキに比べたら、私の作ったクッキーは貧相で。

……だけど、やっぱり椎名先生へのお礼として作ったものだから持ち帰るのも寂しい。


──よし、こうなったらこっそり置いておこう。

直接渡すつもりだったからメッセージカードには私の名前は書いてないけど、渡せるだけでもオッケーでしょ。

決心すると、私は椎名先生のデスクの上にそっと紙袋を置き、さささと離れ職員室を後にする。


あ、でも、差出人不明のクッキーなんて怖くて食べれないだろうな。

捨てられちゃうのも悲しいけど、名乗らずに置いておくことを選んだのは私だ。

それはそれで仕方ないと自分を納得させるように心の中で呟き、私は教室へと戻った。