椎名先生は無言のまま私を見つめている。

きっと、先生にとってはいらない質問だ。

答えてはくれないだろう。

なんせ、私は先生の友達でもなんともない……


ただの生徒だから。


どんな理由にせよ話して聞かせるほどの存在じゃない。

そう、思ってたのに。


「……昔、嫌なことがあったからだ」


椎名先生は表情を曇らせながら、曖昧に教えてくれた。

そして「もう休め」と、いつもの教師らしい声を残し、私の部屋から出て行く。


間もなくして玄関の扉が閉まり、オートロックが作動する音が耳に届いて。


私は……瞼を閉じる。


嫌なことがあったと言いながら先生が見せたその表情は


あの日の寂しげな横顔を


私に思い出させた──‥