「少し疲れてるだけです」


そう答えると、椎名先生は「少しか?」と口にしながら私に手を伸ばし……


額に、手を当てた。


少しひんやりとした先生の手に、心臓がトクンと反応する。


また、だ。

前もこんなだった。

何気なく手が伸ばされて、触れられる。

真面目でクールな先生が見せる温かい一面。


嫌じゃ、ないなぁ。


そんな風に思いながら、先生の手が離れていくのを見ていれば。


「何が少しだ。帰るぞ」

「へ?」


椎名先生の右手が、私の二の腕をグッと掴んで立たせようとする。


「い、いいですよ。そのうち帰ります」


今は帰りたくない。

誰もいないあの家には、もう少し気分転換してから帰るつもりなのだ。

なのに、先生はダメだとばかりに頭を振って。


「熱が高そうだから今すぐだ」


有無を言わせない勢いで、私をファストフード店から連れ出した。