単純に考えると、海で溺れかけたことがあるっていう理由が浮かぶ。

だけど、そんな感じじゃない気もしていて。

じゃあ他にどんな理由があるのかと探してみても、"元々苦手"とか"くらげに刺されたことがある"とか、そんなのしか浮かばない。

多分、海が嫌いだと聞いただけならこんなに気にならなかった。

どうして私は、そこに先生の寂しげな横顔を繋げようとしてしまうのか。

結局何もわからないまま数学の授業は慣れ親しんだチャイムの音と共に終わり、その後の授業もどこかぼんやりと椎名先生の事を考えたまま過ごしていた。


そして放課後。


「今日、珍しく熱心だったじゃん」


私は今日も悠馬の自転車に乗せてもらって家路を辿っている。


「何が?」


前を向き、自転車を漕ぎながら話しかけてきた悠馬に私が聞き返すと、悠馬は「数学ん時だよ」と教えてくれた。


「ああ……別に、そういうんじゃないんだけどね」


実際、授業内容なんてほとんど覚えてないし。

……あ、そうだ。

1人で悩んでても埒があかなそうだから、ここはひとつ悠馬に聞いてみよう。

思いついた私は、あいにくの曇り空を見上げながら唇を開いた。