──波の音が聞こえて、私は目をさます。


空には優しいオレンジのグラデーション。

どうやら私は、白い砂浜の上に敷かれたレジャーシートで寝ていたらしい。

ゆっくりと体を起こし、波が揺らめき夕陽の光が反射する海へと視線を向ければ。


デニムパンツのポケットに手を入れながら海を眺め、ジャケットを風にはためかせた椎名先生の背中。


先生、と。

その背中に声をかける。


椎名先生は振り向くと、柔らかい笑みを浮かべた。

その笑みが、あまりにも愛おしくて、苦しい程に切なくて。

鼻の奥がツンとするのを感じ、私は顔を俯かせ膝を抱える。


さくさくと、砂を踏む音が波音に重なって聞こえると、私の頭にポン、と暖かな感触。

顔を上げれば、私の頭を撫でる先生の穏やかな顔があった。

先生の柔らかな髪が風に靡く。

側にいれることが、こんなにも嬉しくて、涙が頬を伝った。


ねぇ、先生。

最後に、何を言おうとしてたの?


その質問に、先生は答えてはくれず。

ただ、隣に寄り添い続けてくれていた。


私の涙が、止まるまで。