縋るように繋いだ手を引き寄せて、祈るように両手で包み込む。

頬を伝う大粒の涙がシーツに落ちたと同時、ベッドサイドにあるモニターからアラームが鳴り響いた。

先生の体に異変が起きたのだと気付き、すぐにナースコールを押そうと視線を彷徨わせた時だった。


「……あり……が……う……」


先生の手が、弱々しく私の手を握り返して。


「……は……」


何か言おうしたけれど、唇ははくはくと空回り、けれど、柔らかく微笑んだ刹那──


椎名先生の瞳は光を失い


閉じられた。


絡めた指はゆっくりとほどかれて。


「せん、せ?」


私は力を無くした先生の手を強く、強く握る。


「起きてよ……」


けれど、唇は固まり動かないまま。


「起きて、よ……」


心臓が激しく胸を突き上げ、私は何度も何度も頭を振る。


約束を、したの。


『じゃあそれを克服できたら名前のこと、考えるって約束ね』


この手の小指を絡めて。


『ああ。約束するよ』


微笑みを浮かべて。


2人だけの約束を。


「せんせ……っ……先生!」


高校3年、5月。

階段から落ちそうになったのを、先生に助けられてから丁度1年になるこの日……


私は、大好きな人を


失った。