お腹の辺りまで掛けられた掛け布団。

その上に乗っている点滴の繋がれた手はピクリとも動かない。


「痛みがひどくてモルヒネを使って痛みを取ってるんだよ。でも、そのせいで意識が朦朧としてるから、あまりまともな会話はできない状態なんだ」


葛城さんの説明に、私はただ頷くしかできなかった。

椎名先生は、まさに危篤の状態。

胸は上下していて呼吸を繰り返してはいるが、心臓の動きを伝えるパルスはひどく弱い。

強くあろうとした心は、以前より痩せた先生の姿を見てすぐ弱々しいものへと変わってしまった。


「少し、外すよ」


気を使ったのか、葛城さんは静かに病室を出ていく。

残された私は、目を閉じて呼吸を繰り返す椎名先生の側に立った。


「……先生、久しぶり」


泣かないよう、小さな声で挨拶をする。

でも、先生からは何の反応もなく、聞こえるのは心電図の電信音だけ。

私はそっと、先生の手に自分の手を重ねて乗せた。

熱があるのか、その手は少し熱い。


「葛城さんから聞いたよ。先生の病気のこと」


先生は寝ているのか、瞼さえピクリとも動かないけれど、私は語りかける。