──そういえば、舞子のお見舞いに来ていた時に椎名先生を見かけたことがあった。

単純に風邪だなんて思ってたけど、あれはガンの経過を診てもらう為の通院だったんだろう。


どんどん、繋がっていく。

何気なく過ごしていた日々の中に先生の病気を知らせるものがあったのに、私は何ひとつ気づけなかった。

気付けていたら、遅かったと言われた今はなかった?

私1人の存在で大きく未来が変わるなんてありえないかもしれないけど、それでも、そう思わずにはいられない。


車を降りて、葛城さんに案内されるまま消毒の匂いに包まれた院内を歩く。

不安で落ち着かない鼓動を感じながら足を進めると、葛城さんはひとつの扉の前で足を止めた。

そこは個室で、扉の横にあるネームプレートには『椎名』と書かれている。

ついに辿り着いてしまったとい気持ちと、早く会いたいという気持ちが混ざりあって立ち尽くしていたら。


「無理かもしれないけど、この先は本当に覚悟して入って」


静かに、でも真剣な声色で言われた私は、気持ちを強く持つように大きく深呼吸をした。

葛城さんがスライド式の扉に手をかけて、ゆっくりと開けていく。


ピッ、ピッという機械の音が聞こえてきて。


「どうぞ」


葛城さんに先に入るように促される。

温かみのある木目調の床の上を歩き、ベッドへと近づけばそこには──


「……っ、せん、せ」


ずっと、ずっと会いたかった人が、白いシーツの上に静かに横たわっていた。