厳しい顔をした悠馬を残し、葛城さんは先生が入院している病院へと車を走らせる。

張り詰めた雰囲気が漂う車内で、葛城さんは教えてくれた。


椎名先生の身体を侵している肺がんは、20代で患うことは稀なこと。

先生は子供の頃から風邪をひきやすく気管支が弱いこともあり、ガンの発見が遅れてしまったこと。

ガンを自分への罰だと思い、抗ガン剤治療を避けていたこと。

先生のガンは進行性の早い種類で、倒れた日には他の臓器への転移が見つかったこと。


「でも、その日の要は違ってた。どんなに辛い治療でも構わないから、治したいって主治医に願い出たらしいよ」

「先生のご両親から聞いたんですか?」


先生は自分からそういった話しはしないだろうと思って聞いたのだけど、葛城さんは頭を振った。


「いや、要の叔母さんから」


……先生の叔母さん?

普通、治療とかの話しって親が聞くものだと思ってた。

その考えが顔に出てたのか、信号待ちをしながら葛城さんは「君になら話してもいいか」と添えて。


「……要の両親は他界してるんだ。要が幼い頃に、2人ともガンでね」


だから、要のガンも遺伝なんだろうと、葛城さんはアクセルをゆっくりと踏みながら口にした。