「何か言ったか?」

「気にしないでくださーい」


このままここにいたらまた説教されるかもしれない。

だから私はくるみの腕を引くと、逃げるようにその場を離れた。

その瞬間、小さく溜め息が聞こえた気がして、そっと振り返る。

呆れた眼差しを向けられているかも。

そんな想像をしていたのだけど……

私の視線の先にいる先生は私ではなく、午後の光溢れる窓の外に向けられていた。

開いた窓から吹き込んだ風が、先生のショートレイヤーにカットされた柔らかそうな髪を緩く揺らす。


刹那、目を細めた椎名先生が、何故か寂しそうに見えて。


その光景は暫く


私の心に残ったままだった。