「だから……学校に、来なかったの?」


堪えきれず涙声で問い掛けると、葛城さんは「そうだね」と静かに頷く。

そう、だったんだ。

先生は、ガンと闘ってたんだね。

約束を交わしたあの日、乗り越えたらと言ってたのは病気のことだったんだ。

ああ、まだ頭の中はグチャグチャだけど。


「……葛城さん」


今、しなきゃならないことは。


「お願いが、あります」


したいことは、ハッキリわかる。


「先生に会わせてください」


私を呼んでくれている、先生に会いたい。


私の願いに、いち早く反応を示したのは悠馬だった。


「やめとけよ。行っても遥が辛い思いするだけだろ」


厳しい声で咎められて、私は一瞬視線を彷徨わせる。

……そうかもしれない。

今ここに葛城さんが現れた意味。

それを考えたら、辛い現実が待っているのかもしれない。

だけど、きっと。


「行かないと、後悔する」


葛城さんは私の言葉を聞くと、真顔で私を見つめて。


「覚悟があるなら、車に乗って」


そう言うと、葛城さんの後方に停めてある彼の愛車へと踵を返した。